2023年07月26日

長編戯曲「兎、波を走る」を読む



長編戯曲「兎、波を走る」を読みました。

不思議な会話が飛び交っていました。
一体、何?何が始まるんだろう?

潰れかかった遊園地を舞台に繰り広げられる
劇中劇(ショー)のようなもので「なんともいたたまれない
不条理を感じ取っていただければ」というのが開幕前の
野田秀樹さんからのメッセージでしたが‥‥

だんだんと読み進めていくと‥
アリス、アリスの母、脱兎、その他のキャラクターの登場により
益々混沌とする中、不条理という言葉が行きかいます。

そして、かつて世間を震撼とさせた“あの言葉”を目撃します‥
えっ!そうか‥そうだったんだ‥と
私はあの頃と同じように、想いを彼方へと馳せました。

なるほど‥脱兎‥はそういう役目の兎だったのか‥と
なんとも言えない感情が駆け巡りました。

物語「不思議の国のアリス」ならば
夢の中のアリスは、命に係わるような怖い想いもしたけれど
目を覚ませば、そこはお姉さんの膝枕なのですものね‥

だんだんと隠れたストーリーが顕わになります。
現実の世界で起きた出来事は、不条理そのものです‥


2021年の「フェイクスピア」も話が進むごとに
適切な表現ではないのかもしれませんが
まるで化けの皮が剝がれるように
埋もれ隠れていた、1985年の日航機墜落事故の輪郭が現れました。

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舞台の幕開けには事故究明の心臓部である苔色の匣を
monoはすでに持っていて、匣をあけて音を聞いていました。

でも、観客にはそれがまだ、何であるのかわからなかったのですが‥
少しづつ皮を剥ぐようにして進んでいくと
だんだんと根底にあるものの姿が見え始めるのです。

あの匣がコックピットでの会話が収まる
ボイスレコーダーだとわかった時、不覚にも戦慄が走りました。



先日のnews23に出演のおりの野田秀樹さんは
「1955年生まれの自分が生きてきて感じて
ずっと引っ掛かかっているものだけは
舞台として残しておきたい感じが個人的にある」と語られていました。

私と野田さんは同年代の人間ですので
流れる時間の中で見聞きした出来事は
日本において平均的に生きてきた人間ならば
ずっと引っ掛かっているものは、ほぼ一緒なのかもしれません。

今回の「兎、波を走る」の中に見え隠れしながら存在していた
不条理という言葉の行方を追いながら
不条理という言葉が持つ本当の恐ろしさを
改めて感じとることができました。

そして、あの出来事の記憶は多分、普段は忘れてはいても
当時テレビ等で、目の当たりにして見て感じ取った人ならば
細胞の中に染み入るように、充分承知しているはずです。

未だ、終わってはいないのです‥




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2022年08月18日

「騎士団長殺し」の『私』を観たい‥

「僕のバイブルなんです」と以前から高橋一生さんが絶賛する
荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ‥



シリーズの中に登場するあのエキセントリックな漫画家岸辺露伴を
まさか一生さんが演じる事になろうとは想像もしていませんでした。
岸辺露伴役の出演が決まった時
一生さんは飛び跳ねる位嬉しかったそうです。

実写化するには作り手側に相応のセンスと作品への敬意が必要です。
漫画を現実の世界に上手く落とし込んだ上、腑に落ちなければ
漫画の持つ世界観を台無しにしかねず
実写自体、奇妙な存在になってしまいます。

2020年の12月、2021年の12月に放送された「岸辺露伴は動かない」は
あらゆる危惧を払拭し、鳥肌ものの出来映えとなりました。

そして、この21日に大千秋楽を迎える
作家上田岳弘さん初の戯曲「2020」の舞台公演は
白井晃さんの演出による、80分ノンストップで
一生さんが一人芝居に挑むというエネルギッシュで挑発的な舞台です。



上田岳弘さんの作品のファンであり
個人的にもお付き合いのある一生さんは
以前「あれは私が一人目のクロマニョン人だった頃」とか言って
上田さんの作品「私の恋人」の主人公を
やりたいとおっしゃっていました。

しかしこの度上田さんの戯曲「2020」では
しっかりとクロマニョン人になっていたではないですか!

次から次へと希望を叶えている一生さんですが
以前からずっとラブコールを送っているのが村上春樹さんです。

村上さんの作品の大ファンである一生さんは
以前から「騎士団長殺し」の『私』がやりたいです!
と憚らずおっしゃっています。

作品の中の『私』は36歳です。
一生さんは41歳ですが、まだまだ許容範囲です。



「騎士団長殺し」の一生さんの朗読は
12月28日から配信となりますが
やはり映画、TVドラマ、舞台‥で一生さんの『私』を観たいです。

「騎士団長殺し」を読み始めた最初のうちから『私』は僕でした‥
と、主人公の『私』そのものになった感覚があった事を
2019.3新潮社「波」に一生さんは綴られています。

仕事以外の時間は何を差し置いても
「騎士団長殺し」を読むことが最優先だと感じ
この作品は自分の人生に何か示唆的なものとして
現れたんじゃないかと思うようになったそうです。

作品を読む少し前、一生さんは自分で選んで失ったものが
かけがえのないものだとわかり
取り返しがつかないという、今までに覚えのない
喪失を経験したそうです。

『私』の設定に加え『私』が経験する喪失が
そのまま一生さんの喪失そのもののように感じたため
そんな感覚になったようです。

一生さんは仕事を始めてからずっと
同じところを叩き続けてきたそうです。

行き止まりに到着しても穿つ‥と一生さんは綴ります
行き止まりでも今は希望を感じるそうです。

いつものように同じところを叩き続け
立ちはだかる大きな岩に出会っても穿つ‥
背後に隠された横穴が見つかる確信があるそうです。

一生さんにとって「騎士団長殺し」は「確信」を抱かせてくれた
指南書のような存在なのかもしれません。
「騎士団長殺し」の『私』との出会いは
ある意味シンクロニシティとも言えるのでは‥

一生さんに『私』のお役が来ますように!





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2021年06月04日

シェイクスピア全訳 松岡和子さん

昨年の10月、このブログに
「シェイクスピアのことばに支えられる」という記事を書きました。

松岡和子さんが1993年から始めたシェイクスピア37戯曲の
完訳を目前に控えていることや
松岡さんがご主人の闘病で精神的にフニャフニャになった時
支えになった言葉がシェイクスピアの
「The readiness is all(覚悟がすべてだ)」だったという内容でした。

そしてこの度とうとう37戯曲の完訳を果たされたそうです。
本日(6月4日)の朝日新聞の朝刊に載っていました。

シェイクスピアの喜劇「終わりよければすべてよし」をもって
昨年12月18日に訳了したそうです。
「ラジオ深夜便」のコーナー『わたしの人生手帖』で
初めて松岡さんのお声を耳にしたのが昨年の10月でしたので
あの直後が訳了だったのですねえ‥
50歳すぎてからの挑戦ですので28年の歳月が流れています。


DSCF1228

日本語全訳は、日本では女性として初めてで
個人としては坪内逍遥、小田島雄志さんに続き3人目だそうです。

松岡さんの翻訳の強みは
現代の日本の芝居をたくさん観て、台詞を耳で聞いている事と
同音異義が多い日本語で訳した言葉が
別の意味に聞こえないかという想いがあって
芝居の稽古現場へ出向き、そこで演出家や役者とディスカッションをし
最終的な上演台本をつくるという戯曲翻訳の原体験を
ずっと続けていた事にあると想います。

「訳者として作品の解釈はしても
演出は最小限にとどめるのが基本姿勢。
でも声のトーンを聞いて違った言葉も浮かぶことがある」

「役者さんの感性はすごい。『ハムレット』の中のオフェーリアの
ある場面の言葉遣いに違和感を抱いていたら、松たか子さんに
❝わたしそれ、親に言わされていると思ってやってます❞と言われ
一気に氷解した」という松岡さんのインタビュー記事から
やはり原体験は松岡さんの翻訳に反映し
不自然に感じない言葉と、生きた言葉をもたらし
納得のいくかたちで落としこめるのでしょう。

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松岡和子さんの37戯曲翻訳は
ちくま文庫全33巻「シェイクスピア全集」に収められています。






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シェイクスピア全集 全33巻セット (ちくま文庫)
シェイクスピア
筑摩書房
2021-05-12



シェイクスピア全集33 終わりよければすべてよし (ちくま文庫 しー10-33) [ シェイクスピア ]
シェイクスピア全集33 終わりよければすべてよし (ちくま文庫 しー10-33) [ シェイクスピア ]


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2021年05月20日

推しの言葉‥

母はお陰様で今年の3月で
90という齢を重ねさせていただきました。

最近の90歳代は皆さんしっかりしていて
しゃかしゃかとお一人で行動されている方も
近所に大勢いらっしゃいます。

しかし個人差があるのは当然で
母は在宅介護でようやっと生活ができている状態です。

そんな母は、ご多分に漏れずと言いましょうか
まあ、致し方のない事と言いましょうか‥
最近、現在と過去が混ざり合うようになってきました。

まだそれ程顕著ではないのですが、昔の事を昨日あったように話す母に
私は我慢できず「違うでしょう!それは10年も前の事でしょ!
しっかりしてよ!」と、つい感情的な言い方をしてしまいます。

母の存在がどこか遠くに有るように感じてしまい
なんとかして以前のしっかりとした母を取り戻さねばと
わかっちゃいるけど焦るような気持ちになってしまうのです。
身内だと感情が先走ります‥

最近、介護は在宅ではなく施設の方が良かったのかな?
と、今になってつくづく思います。
その方が親と子の関係が感情的にならずにすみそうです。


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そんな時、以前雑誌で読んだ高橋一生さんの記事を
ふっと思い出したのです。

『亡くなった僕の祖母も最後は認知症になって‥
徐々に記憶が曖昧になっていきました。
けれどそれって、互いに「さようなら」を言うための
準備期間なんだと思いました。
忘れていくのはすごく優しい事でもあるんだと。』2018.11文藝春秋より

病院というクッションをおいているからかもしれませんが
おお!なるほど‥そんなふうに考えられるのは素敵だと思います。

そして、その記事には私自身も曾て経験した
本人にしかわかり得ない亡き人との関わりがもたらす
感情のうねりの瞬間が描かれていました。

DSCF1135


『僕、祖母が亡くなった時は泣けなかったんですが
ある時タッパーを見つけて、一気に感情が高ぶって泣いてしまった。
まだ祖母が元気な時、僕が塩焼きそばを作って
タッパーに入れて病院に持って行ったら
「美味しい美味しい」って言って食べてくれたんです。
その後介護をしている間僕はその事を
すっかり忘れてしまっていました。
けれど祖母が亡くなった直後病室の整理をしていたら
そのタッパーを見つけたんです。
その瞬間祖母の記憶がブワッと戻ってきて
涙が止まらなくなったんです。』2018.11文藝春秋より

なんて優しい、なんて温かい
なんて愛そのものの出来事なんだろう!
小さな頃から祖母様っ子であった
一生さんの素直な感情の流れだったのでしょう。

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私自身も父親、夫、祖父、祖母と身内との臨終に立ちあいました。
その瞬間はドラマのように「わぁーっ!」と泣きはしませんでした。

亡くなった人は召された瞬間に懇意にしていた人々の胸に宿ります。

まだ日が浅いと、亡き人と関わった場所、会話
品物などがきっかけとなり
亡き人との「時間」が蘇ることがあります。

間違いなく刻まれた時を感じ、その時の自分の想いや
亡き人の温もりや息遣いが体をつつみ込むように巡ります。

もう会えないという現実をより強く思い知らされ
その刹那高ぶった感情は
涙と共に間欠泉のように吹き出す時を迎えます。

一生さんのその時の心模様は充分に理解できます。

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                                          TBS  サワコの朝 より

一生さんのどこがどう好きなのかなぁ‥‥と想うのですが
語彙力、表現力が乏しいので上手に書くことができません‥

もちろんお芝居は言うまでもありません。
観る度に惹きつけられ、一挙手一投足を見逃すまい
というような気持ちで見入ります。

お祖母様との出来事のような一生さんのコメント記事や
バラエティー番組などから醸し出される人となりは
あくまでもお仕事の一環での様子とは言え
会話や動作や表情を観ていれば伝わるものがあります。

話す言葉の選び方とその内容などは
ずっと同じ一本の道から外れることのない一貫性があります。
その真摯でひたむきな姿勢が大好きです。

もちろん、お顔もお声も全てが魅力的な方です。









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2020年11月10日

岸辺露伴は動かない!コミック届きました!

先日「岸辺露伴は動かない」1、2巻届きました!
いやぁ!とっても面白くて夢中で読みました。

DSCF0424

個性的な登場人物が筋肉を駆使しながら弾け飛ぶ
躍動感ある荒木飛呂彦さんの筆致は
緻密さから浮き出てくる不気味さと滑稽さが介在する
独特な世界観をより一層際立たせていると想います。

露伴ちゃんが漫画を書く前に行う準備体操やってみました。
両腕を上にあげて手の平を上にして90度に曲げるという
簡単なようで難しいポーズから始まり
次に肘をまっすぐに両腕を前に伸ばして
手の平は前にして90度に保ちます。
そのポーズのまま指を一本づつ折っていきます。
終わったら今度は一本づつ指を開いていきます。

準備体操時の露伴ちゃんの後ろ姿が実にいいです。

高橋一生さんの露伴にもこの準備体操を是非お願いしたいです。
楽しみにしています。

願わくは露伴ちゃんの笑ったお顔を真正面から見てみたいです。
フフッ‥っと微笑んだ横顔位かな見たのは‥

今回は1、2巻のセット買いの他
「岸辺露伴ルーブルへ行く」のフルカラーコミックも
衝動的にポチってしまいました。

DSCF0426


このカバーイラストはフランスに敬意を表してトリコロールです。
そこへ日本のテーストを意識し日本画のモチーフにもなる
雲や波をイメージし取り入れたそうです。

2009年1月荒木飛呂彦さんの原画は
フランスのルーブル美術館に展示されました。
日本の漫画家の絵が展示されるのは初めての事だそうです。
展示前の荒木さんのフランス取材記が一緒に載っています。



岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス) [ 荒木飛呂彦 ]
岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス) [ 荒木飛呂彦 ]




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